柏洋通信
2018.11.14
柏洋通信VOL81
日本ガラスびん協会主催のヨーロッパ視察に行ってきました。その④
マンチェスターからアムステルダムへとんぼ返りした翌日、10月24日の午前8時過ぎ、今度は陸路でドイツのデュッセルドルフへと向かいました。時折雨脚が強まる生憎のお天気でしたが、バスは高速道路を快適に進みます。オランダとドイツはともにユーロ圏内とあって、途中国境を超える際にもパスポートのチェックなど全くありません。一方で昨日訪れたイギリスでは、現在ユーロを離脱する交渉でもめにもめている最中です。丁度この文章を書いている11月14日、「暫定合意」したとの報道が新聞やテレビを賑わしましたが、実際に離脱が完了するまでには、まだまだ紆余曲折がありそうです。昨日訪問したエンサークグラス社のエルトン工場で大量に生産されているびん詰め製品も、ドーバー海峡を渡って広くユーロ圏内に出荷されているはずです。今まで自由に行き来できていたにもかかわらず、ユーロから離脱すれば否応なしに国境を意識せざるを得ず、商売の自由度は格段に制限されることになるでしょう。大規模なエルトン工場のあり方自体が見直されることになるやもしれません。既にオランダとの国境を越えドイツ国内をひた走るバスの車中で、ふとそんなことが頭をよぎりました。バスはその後も快調に飛ばし、お昼前には無事デュッセルドルフに到着しました。
デュッセルドルフはドイツ西部の経済の中心地として、また有数の見本市会場があることでも有名です。今回で25回目を迎えたグラステックは、ここを会場に10月23日から26日の日程で開催されました。グラステックとはあらゆるガラス産業が二年に一度、一堂に会する世界最大級の展示会です。世界50カ国から前回を上回る1,280社が出展し、日本からも7社がブースを出しています。ガラスびん産業は建材の板ガラスからハイテク分野の液晶に至るまで、同じガラスの範疇でありながら、それぞれ製法も異なり用途も実に広範囲に渡ります。会場は9ホール、6万4000㎡に及ぶ広大なスペースの中、ガラスびん関連は主に13,14ホールの二つを占めています。今回我々がグラステックを訪れた主な目的は二つありました。一つは現在使用している検査機をどのようにリフレッシュさせ、今後も長く使っていくか。二つ目は次世代の検査機にどのようなものがあるのかを見極めることです。それぞれお目当てのメーカーのブースを訪れ、慣れない英語を使って身振り手振り、スマートフォンの翻訳アプリも駆使して大汗をかきながらの情報収集です。何とかこちらの意図は理解してもらえたようで、ほっと胸をなで下ろしたのもつかの間、日本国内にエージェントがいないなど、技術的なフォローやサービス面で課題が山積みです。とはいえ、欧米と異なり日本国内のガラスびん需要がシュリンクしている中、一歩腰の引けた国内メーカーに頼ってばかりいるわけにもいかず、これから難しい判断が求められます。
グラステックの会場を見て回る度に感じることですが、ガラスびん産業も実にすそ野が広いということです。出展している企業もレンガなどの耐火物、バーナー、金型、製びん機、検査機など千差万別です。一口に金型といっても、その中の一部であるプランジャーだけに特化していたり、用途は様々ですがコンベア一本に絞っていたりと、とことんこだわってニッチの分野で生きている中小企業が意外に多いことです。見方を変えれば、それだけ世界のガラスびん産業のスケールが、我々日本人の思っている以上に大きいということ。そして、日本とは異なりガラスびん産業が現在も伸びていることから、生産性や品質の向上を目指し、設備投資も十分に行われていることの証だと思います。当たり前の話ですが、伸びている産業であれば、技術革新も生まれます。世界的に見ても、ガラスびん需要が低迷しているのは日本を含む東アジアの一部だけだと聞くと、驚かれる方も多いのではないでしょうか。今回のグラステックでも、活気ある会場の雰囲気に触れることができ、大いなる勇気をもらいました。
翌日の25日もグラステックの会場に足を運び、今回のヨーロッパ視察における全てのミッションは終了しました。翌26日の早朝デュッセルドルフを発ち、パリを経由して27日の朝、成田空港に無事到着しました。今回の視察旅行を通じて改めて感じたのは、ガラスびんを取り巻く環境が、欧米と日本では著しく異なるということです。地元のスーパーマーケットや街角のキオスクで、当り前のようにガラスびん入りの飲料や食品が並んでいる光景を目の当たりにすると、うまく表現できないのですが、単に安全性やエコを重視するだけでは語れない何かがあるのだと感じました。それは日常的に使う容器といえども、ただ利便性や機能性を求めるのではなく、使い心地や風合いまでをも大切にする「大人の社会」の姿なのかもしれません。日本をこうした社会に変えることは、残念ながら我々の力だけでは限界があるのは事実です。それでも、否が応でも成熟せざるを得ない日本の社会が、少しずつでも変わっていくことを期待したいものです。ともあれ、当社が今やらなくてはならないことは、こうした他力本願的なことではありません。今回二つの工場を見学したわけですが、それぞれ特徴あるやり方で生産性の向上を実現していました。我々はついつい最新の設備に目が行きがちですが、どちらも根底には人材の活用がありました。「生産性の向上に何を重視するか」の問いに、「トレーニングと標準化」と即答したエルトン工場の方の言葉が耳を離れません。最後になりましたが、今回のヨーロッパ視察旅行で9日間寝食を共にし、絆を深めることができた23名のグラスマンたちに、この場を借りて改めて感謝します。
七島 徹