柏洋通信
2018.11.07
柏洋通信VOL80
日本ガラスびん協会主催のヨーロッパ視察に行ってきました。その③
10月22日の早朝、オランダのアムステルダムから空路イングランドのマンチェスターへ向かいました。今回のミッションはエンサークグラス社のエルトン工場の見学です。マンチェスターはイングランド北西部の主要都市ですが、日本人には意外と馴染みが薄いのではないでしょうか。もちろんサッカーファンなら「赤い悪魔」ことマンチェスター・ユナイテッドの本拠地「オールドトラフォード」ある町として、知る人ぞ知る町なのですが。
事前の情報によると、エルトン工場は2005年にクイングラス社の工場としてスタートしました。その後2014年にエンサークグラス社に買収され、翌2015年にスペインに本社を置くビドララグループの傘下に入り、エンサークグラス社のエルトン工場として現在に至っています。近年ヒドララグループは3つの工場に総額2.5億ユーロ(約325億円)の巨額の投資を行い、その内の1つであるエルトン工場も大きく変貌を遂げたのだそうです。そしてもう1つ忘れてならないのが、エルトン工場は大規模な充填ラインを併設していることです。すなわち、成形されたガラスびんがそのまま隣の充填工場へと流れていき、ワインやビールなどの飲料が詰められ、そのまま製品となって出荷されているのです。話を聞けばなるほどと思うのですが、実際に見学してみるまでは、どうなっているのかイメージできなかったというのが正直なところです。
マンチェスター空港から北西へバスで40分ほど、目指すエルトン工場はのどかな田園風景の中に、こつ然とその強大な姿を現しました。ミーティングルームでビドララグループとエルトン工場の概要説明を受けた後、充填工場からガラスびんの製造現場に遡るルートで工場見学が始まりました。まずそのスケールの大きさに圧倒されました。製びん工場は750㌧と850㌧の2つの溶解炉を持ち、製造ラインは実に13本を有しています。溶解炉、製びん機を経て検査工程までラインはまっすぐに伸び、いずれも最新の機器が並んでいます。続いて6本のラインが伸び、その中の一本では膨大な数のびんにワインが充填されていました。その後バルク包装されたパレットが自動搬送車に載せられ、巨大な自動倉庫へと吸い込まれていきます。一方で広大なヤードでは大型トラックに充填済みの製品が積み込まれ、全国のスーパーマーケットや小売店へ次々と出荷されていきます。ここエルトン工場では競合他社が持ち得ない、ガラスびん製造、充填、流通を一貫して提供するシステムが確立しているのです。
ビドララグループのもう一つの強みは、人材育成・教育にありました。現場のオペレーターの教育・訓練、そして次世代のガラスびん製造のプロフェッショナルを育成するためのアカデミーを持っており、専門のスタッフがその任に当っています。驚いたことに、自社の人間だけではなく、一部を除いて広く他社からも受け入れているとのこと。当日はトレーニングルームで教育を行っている場面も見せていただきましたが、現場で実際に使用されている設備が稼働可能な状態で設置されており、座学ばかりでなく現場技術の習得も効率的に行われていることが分かりました。実にうらやましい環境です。最後に「生産性を上げるために何を一番重視するか」と質問すると、間髪入れずに「トレーニングと標準化」という答えがかえってきました。ここエルトン工場でも、最新の設備や機器に優るとも劣らず、従業員のモチベーションや能力を大切にしていることが分かりました。
七島 徹